井上広法さん講演会「生き抜く力は生き抜く力」

テレビ朝日『ぶっちゃけ寺』で夜中にやっていた当初から何度もご一緒させていただいた浄土宗光琳寺副住職井上広法さんによる講演会でした。今回はお盆の施食法要後にお願いいたしました。

 

『息抜く力は生き抜く力』と題してマインドフルネスについてお話しいただきました。

 

大リーグで活躍するイチロー選手がバッターボックスに入る際に、深い集中状態に入るためにしていることを解説。スポーツの世界では「ゾーン」、心理学の世界では「フロウ」、仏教の世界では「正定(しょうじょう)」という状態に入りやすくなる。

 

次に、マインドフルネスの定義を理解するために、鐘を鳴らし、その音がいつまで耳に聞こえるかというワークを行った。

 

余談では、テレビ番組「ぶっちゃけ寺」が立ち上がった経緯など、テレビ業界のお話もしていただいた。

 

そして、干しブドウ一粒を三分間かみしめる「レーズン・エクササイズ」というワークを行った。心のエクササイズでもあるという。これは「マインドフル・イーティング」「食べる瞑想」ともいう。井上さんは、「生まれて初めて干しブドウを食べる気持ちで」と言葉を添えた。

 

掌に干しブドウを置き、口に含み、舌の上に乗せて転がし、上の歯と下の歯でゆっくりと噛んでいく。干しブドウをあるがままに感じ、自分の感情を勘定に入れない。これがまた難しい。普段の生活の中でこれほどまでにゆっくりと、しっかりと、そしてじっくりと食べ物を噛みしめる機会がないので、意識しないとすぐに飲み込んでしまう。向き合い方を変えれば得るものが違ってくることを実感したワーク。

 

また、井上さんは「少欲知足(しょうよくちそく)」「我只足るを知る」という言葉を紹介された。心がここになければいつまで経っても満たされない。

 

最後にストレスの話になった。メダカの水槽にメダカの天敵を入れ、二週間観察するという実験だ。天敵にはエサを与えているのでメダカを食べることはないのだが、メダカにとっては怨憎会苦の状態になっている。二週間後、メダカは水槽の隅で小さくうずくまっていた。メダカがうつ病になったのだ。過度なストレスが私たちにのしかかると、人間もそのような状態になると仰る。

 

人間誰しもつらい過去の記憶、未来への不安があるだろう。「過去の記憶、未来の想像が悩みを作る」と井上さんは仰る。思考のループに気づき、戻し、それを繰り返すことで本当に嫌なことでもそこから距離を置き、離れることができるという。悩みの渦中にいた自分が、悩みの中心から離れる時間が長くなればなるほど、心が元気になっていくと井上さんは語る。

 

悩みに振り回されるのではなく、その悩みから離れることの大切さ。悩みは過ぎたときの、またはまだ訪れていない未来の、対処しようにもどうしようもないものであるからだ。まさに今回の講演会のように、「力を抜いて息を抜いて」生き抜くことの大切さを多くの人が学んだと思う。宗派を超えた良きご縁に感謝いたします。合掌 住職