今回のご講演者は臨済宗建長寺派香林寺ご住職、RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック医師・副院長の川野泰周さん!慶応大卒で精神科の医師でもあられる川野さんに「マインドフルネスで育む健やかな心」と題してお話しいただきました。
川野さんの専門はマインドフルネスを利用した医学治療法。
講演会では、このマインドフルネスを用いて心を整え、日々を心穏やかに暮らしていくコツについてお話しいただきました。
マインドフルネスは2600年前のブッダの仏教的な瞑想にヒントを得て、欧米の研究者を中心に研究されてきました。今では欧米のみならず、中東・アフリカにも広まっています。3、4年前に発表された研究では、マインドフルネスを用いることで、投薬治療よりもうつ病の再発を予防できるというデータが示されたそうです。
都市部のクリニックで働いている川野さんの元を訪ねる患者のほとんどがうつ病かパニック障害だという。うつ病の厄介なところは再発との戦いである。欧米では2回以上うつ病の再発をした人には瞑想を併用するようにということが当たり前になっているそうだ。
以前、タイの洞窟でサッカー少年たちが閉じこめられたニュースでは、10日間閉じこめられた少年たちが笑顔であったことが衝撃を与えた。その裏には、引率していたコーチが瞑想のスペシャリストであったことが深く関係していたという。このように瞑想は、脳や体の疲労を抑制できることが科学的に証明されている。それをビジネスに取り入れようしているのが今の「マインドフルネス」ブーム。
現代の日本人に突き付けられた最大の課題が疲労であり、その根底には睡眠不足があります。
オウム真理教の事件を受け、日本では瞑想や坐禅が洗脳の手段として植え付けられてしまったが、洗脳と瞑想は全く違うもの。瞑想は、「今感じでいるありのままの感覚に注意を向けるもの」だと川野さんは力説されました。
講演の中で、意図的ではない自然な呼吸を実践する場面があったが、これがまた難しい。普段は何の意識もなく呼吸をしているが、いざやってみるとなるとできなくなる。感覚に注意を向けることが瞑想の原点である。反対に、オウム真理教では何度も何度も教祖の教えを刷り込んでいた。このことを履き違えなければどんな人でもマインドフルネスは実践できると川野さんは仰る。
また、心と体は自在に変えられるというワークを行った。前屈や体のひねりなど、ワークを行う前と後の違いに客席からは驚きの声が上がった。人間の心と体は繋がっている(身心一如)。
しかし昨今増えているのが、自律神経失調症の患者である。スマートフォンなどのIT機器から入ってくる情報量は、この十年間で1000倍に増えたのに対し、人間の注意資源が追い付いていないことが背景にある。その犠牲になっているのが自分の内側にある気づき。自分の体調はどうなのか、どこが疲れているのが。それに気づけなくなっている。そこで現代人が陥りやすいのがワーカホリック(仕事に依存している状態)である。
川野さんは仰る。集中が難しいという自分を許してあげること。ありのままの自分を受け止める受容が大事であること。マインドフルネスは気づきと受容のセットであること。それは自分を大事にするセルフケアへと繋がっていくと。
セルフコンパッション(自分に対する慈しみ)という言葉も紹介された。自尊心だけしかないと、自分で自分のことを認めてあげることがないため注意されたときに怒りで返してしまう。人からの評価に頼らなくても、自分で自分のことを認めてあげられるかどうか。自分に対する慈しみが、他者に対するおもいやりにも影響するというアメリカの実験結果も紹介された。
最後に全員で「慈悲の瞑想」を行った。静寂の中で川野さんの言葉に耳を傾けていると、自然と心がぽかぽかと温かくなってくるような感じがする。
せわしい日々の中で忘れがちな自分への優しさ、慈しみを、ぜひ実践していきましょう!
宗派を超えたご縁に心から感謝申し上げます。合掌 by 住職